珠理2

 

広い通りから横道に入って行くと林になって、更に道はカーブしそれまではあった家も

なくなって車でもこんな所に店があるのかと心細くなる辺りに山小屋風の店が現れる。

 珠理はそこで漫画喫茶を経営している。

 

 そんな所に店を作ってやっていけるのか、という幾多の心配の声をしり目にそれまで

勤めていた公務員生活におさらばし、退職金と貯金をはたいて住居兼この店を建てたのは

24年前のことだった。

 最初はご多分に漏れず生活が苦しかったが、知る人ぞ知る隠れ家的存在として地道に

馴染み客が増え、暮らしには困らない基盤が出来て今に至っている。

 

 そこで珠理は、縁があったんだろうか、色んな人の人生を見るちゅうのかな?

人生の岐路に立つ人の話を聞いたり、懺悔みたいなのを聞いたり、死ぬまで持って行く筈

だった秘密というにはあまりに重い事実を知ることになる。

 密かに草引きと呼んでいるお祓いみたいなことになることもあり、こんなことをして

いいんだろうか?と自問自答した時期もあったが、そうなるんだから仕方がなかろう。と

思うようになり、何かにやらされている感があり、決して得意になってはいないが、それ

をした自分を誇りに思えるようになった。

 

 人が認識している世の中なんて、なんて一部分なんだろう、と珠理は思う。

そして、知りたいと本当に望めば何時か知らされることになるんだ。と、思う。

 

 自殺した知人が居た。

何がどうなったのか、彼はどんな気持ちだったのか、死ぬってどういうことなのか、と

心から思った、思い続けたある日、それを体感したことがあった。

 それは、本当にそうなのかどうかは分からないと珠理は思う。

思うが、言葉には出来ない体感体験であった。

 

 庭の手入れをしている時だった。

突然、

92歳で亡くなった女性、家柄の良い家で、性的虐待で育った彼女が自分でも抑えられ

ない怒りと悲しみ恨みから解き放たれ、清らかな透き通った赤子の魂になって消えて行く

のを感じた。

 

「この話してもいい?」と心の中で聞くと

「いいよ、あんたはいい子だよ」と答えた。

 珠理は、彼女の話を聞いた時から頭から離れなくなっていたが、その人と直接会うこと

なく亡くなった。

でも、その後、彼女の家族も知らない事実を知らされていた嫁に会いそのことを言うと

 彼女の口癖が「あんたはいい子だよ」だったと言った。

そして、珠理の話し方が、ソックリだと。

 

 

 

 

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